
原田マハ著『楽園のカンヴァス』を読んだのでご紹介。
美術がテーマなので読む前は少し敷居が高く感じていたが、ルソーやピカソの作品をひとつも知らないボクでも十分楽しむことができた。
アートや美術館に興味のある人にはとくにオススメだ。
『楽園のカンヴァス』のあらすじ
『楽園のカンヴァス』は、19世紀〜20世紀にかけて活動したフランスの素朴派画家 アンリ・ルソーの名作「夢」を巡るミステリーだ。
作品紹介にはこんな風に書かれている。
ニューヨーク近代美術館のキュレーター、ティム・ブラウンはある日スイスの大邸宅に招かれる。そこで見たのは巨匠ルソーの名作「夢」に酷似した絵。持ち主は正しく真贋判定した者にこの絵を譲ると告げ、手がかりとなる謎の古書を読ませる。リミットは7日間。ライバルは日本人研究者・早川織絵。ルソーとピカソ、二人の天才がカンヴァスに籠めた想いとは――。山本周五郎賞受賞作。
物語は2000年、日本のとある美術館のシーンからはじまる。
美術館の監視員として働く早川織絵。
母と娘の3人で慎ましい生活を送っていたが、ルソーの回顧展の企画がキッカケで平凡な日常が動き出す。
ニューヨーク近代美術館のチーフ・キュレーターにしてルソー研究の第一人者であるティム・ブラウンが、
「オリエ・ハヤカワを交渉の窓口にするなら(ニューヨーク近代美術館にある)『夢』の貸し出し交渉に応じる」
と申し出たことで、パンドラの箱が開いてしまう。
そこから話は、1983年へとタイムスリップする。
ルソー研究で名を馳せるパリ大学の若き研究者 オリエ・ハヤカワと、ニューヨーク近代美術館のアシスタント・キュレーターであるティム・ブラウンは、伝説のコレクターであるコンラート・バイラーの邸宅へと招かれた。
二人はバイラーが所有する作品、名作「夢」に酷似した作品「夢を見た」の真贋判定をめぐり対決をすることに。
7日間の対決が進むにつれ、夢を見たに隠された驚くべき真実が明らかになっていく。
『楽園のカンヴァス』の解説
原田マハさんとアート
本作にはとかく作者のアートに対する深い造詣と愛情が感じられる。
公式サイトにある原田マハさんのプロフィールを読んでその謎は一瞬で解けた。
1962 年東京都生まれ。関西学院大学文学部日本文学科、早稲田大学第二文学部美術史科卒業。伊藤忠商事株式会社、森ビル森美術館設立準備室、ニューヨーク近代美術館勤務を経て、2002年フリーのキュレーター、カルチャーライターとなる。2005年『カフーを待ちわびて』で第1回日本ラブストーリー大賞を受賞し、2006年作家デビュー。2012年『楽園のカンヴァス』で第25回山本周五郎賞を受賞。2017年『リーチ先生』で第36回新田次郎文学賞を受賞。ほかの著作に『本日は、お日柄もよく』『キネマの神様』『たゆたえども沈まず』『常設展示室』『ロマンシエ』など、アートを題材にした小説等を多数発表。画家の足跡を辿った『ゴッホのあしあと』や、アートと美食に巡り会う旅を綴った『フーテンのマハ』など、新書やエッセイも執筆。
早稲田の美術史科を出て、森ビル森美術館の設立に関わり、ニューヨーク近代美術館にも勤務し、どっぶり美術の世界で生きてきた人だ。(これだけ書くとどストライクのエリートに見えるが、詳細プロフィールを読むとなかなか破天荒で濃厚な人生を送られていて意外だった)
ニューヨーク近代美術館のシーンがあんなにリアルに描かれてる理由も合点がいく。
同じ原田マハさんが書いた『キネマの神様』は名画座を、『旅屋おかえり』は旅をテーマにしていて、個人的にテーマの趣向がツボすぎるのだけれど、『楽園のカンヴァス』のテーマであるアートはいわば原田マハさんの本業というわけだ。
ボクは美術作品のことはよくわからないが、英文科出身でアートやアカデミズムに対する憧れはいまだ強く持っているので、本作も非常に興奮した。
『楽園のカンヴァス』ではアンリ・ルソーを中心に(ピカソも絡んでくる)物語が展開したが、姉妹作の『暗幕のゲルニカ』ではパブロ・ピカソを巡るサスペンスを書いている。
アンリ・ルソーの謎
アンリ・ルソーの作品は、生前はほとんど評価されていなかったという。
遠近法も知らない幼稚な絵を描く日曜画家と揶揄されたり、元々パリ市の税関職員だったことから「ル・ドゥアニエ」(税関吏)の通称で知られている。
『楽園のカンヴァス』の話がフィクションなのかどうか、気になる人も多いと思う。
本作は史実を元にした半フィクションだ。
織絵とティムが読んだ古書に登場する洗濯船の話やアンデパンダン展などもそうだし、ロックフェラーが「夢」をMoMA※に寄贈したことも史実に基いて書かれている。
※MoMA(モマ)・・・ニューヨーク近代美術館(Museum of Modern Art)の通称
ルソーの人生には謎が多く、生涯最後の作品である「夢」についてもいくつかの謎が残されている。
「ルソーは密林をどこで見たのか?」
「ヤトヴィガという女性は誰なのか?」
「夢」の謎については実際にフランス文学研究者の岡谷公二氏が書いた『アンリ・ルソー 楽園の謎』という本が出版されており、『楽園のカンヴァス』の参考文献リストにもこの本が記載されている。
まとめ
今回は原田マハ著『楽園のカンヴァス』のあらすじや解説をまとめた。
原田マハさんの作品を読むのは今作で3作目。
ひと月ほど前に知人からたまたま紹介された『キネマの神様』『旅屋おかえり』で原田マハの世界観にどっぷりハマってしまい、今も新作の『美しき愚かものたちのタブロー』を耽読している。
もはや中毒。