by ニシムラケイイチ
モノを買うためには、お金が必要だ。
サービスを体験するためには、お金が必要だ。
それは、まったく自明のことのように思える。
しかし、このお金にまつわる常識は、現代ではすでに時代遅れで非常識な考え方かもしれない。
FREEのパラドクス
お金を取らない、つまりモノやサービスを無料(=FREE)で提供することが、逆に大金を生む。
FREEのパラドクスともいえる不思議な売り方が、世の中のスタンダードになりつつある。
無料サンプルを配ったり、”はじめの1話だけ無料”のような、商品やサービスの一部をお試しで提供するモデルはごくありふれている。
ところがFREEは、モノやサービスをまるっと全部無料で提供してしまう。
そんなことをして儲かるのか?と思われるかもしれないが、これが儲かるからパラドクス(逆説的)なのである。
FREEで成功した例をひとつご紹介しよう。
2008年11月、米国の伝説のコメディーユニット”モンティ・パイソン”は、YouTube上で無秩序に行われる違法アップロードに対して反旗を翻した。
YouTubeに自分たちの公式チャンネルを立ち上げ、高画質な映像作品をアップロードすることで、著作権違反をしている低画質な映像を駆逐しようとしたのだ。
もはや君たちが投稿してきた質の悪い映像は用なしだ。われわれが本物を届ける。そう、金庫室から持ち出した高画質の映像だ。さらに、人気の高い過去の映像だけでなく、新たに高画質にした映像も公開しよう。さらにさらに、それらはまったくの無料だ。どうだ!
しかしわれわれは見返りを要求する。
君たちの無意味でくだらないコメントはいらない。その代わり、リンクページからわれわれの映画やテレビ作品を買ってほしい。そうすることで、この三年間、盗まれつづけてきたわれわれの苦悩や嫌悪感をやわらげてほしいのだ。
このキャンペーンの結果はどうなったか。
三ヶ月後、モンティ・パイソンのDVDはAmazonのベストセラーランキングで2位に、売上げは230倍にまで上昇した。
私が使っているChromebookというPCもまた、FREEのパラドクスによって成立している。
Chromebookは通常のPCと比べると値段が非常に安いのだが、それは別に質が悪いからではない。
ChromebookのOSにはGoogleが開発した”ChromeOS”が使われているのだけれど、ChromoeOSは”Linux”をベースにして作られた。
Linuxはオープンソース、つまり誰でも無料で使用や開発ができるOSなので、開発コストが大幅にカットされている。
無料はOSに限らない。
これまでは、たとえばWindowsというOSに、別途必要なソフトウェアを購入してインストールしていた。はじめからWordやExcelなどのOfficeソフトが入っているPCも、実はPCの代金にソフト代が上乗せされている。
ところがGoogleが提供するChromebookは、このソフトウェアを購入するという概念すらぶち壊してしまった。
必要なソフトは、Google製のWebアプリとして無料で用意されている。
文書作成はGoogleドキュメント、表計算はGoogleスプレッドシート、メールはGmail、動画はYouTube。
その他のソフトもGoogleのアプリか数千のChromeアプリで代替することができる。
セキュリティソフトすら購入する必要がない。
だからChromebookは破格の安さを実現しているのだ。
Chromebookの何が素晴らしいって、“フリーのパラドクス”で成り立っているんですよね。そもそもChromeOS(Linux)は無料だし、ほとんどのアプリをGoogleの自社サービスで無償化している。OSフリー、デバイスフリーへの取り組み。お金を取らずに大金を稼ぐ経済の象徴。
— ニシムラケイイチ@ブログ作家 (@nissy421) February 21, 2018
すべてを無償で提供することで、Googleというチャンネルの影響力が増し、ひとつの経済圏が形成される。
お金を取らないことで、大金を稼ぐ。
これからの商売の鍵は、FREEが握っている。
無料からお金を生み出す新戦略
さて、ここまで読んでFREEに興味が出てきたあなたには、こちらの本をオススメしたい。
『FREE〈無料〉からお金を生み出す新戦略』は、世界的大ベストセラー『ロングテール』の著者で、Time誌の”世界で最も影響力のある100人”にも選ばれているクリス・アンダーソン氏による著作だ。
今回のお話しは、”フリーミアム”という新しいビジネスモデルを提唱したこの本の一部を、私なりの言葉でまとめたに過ぎない。
これからの時代を生き抜く知恵を身につけたいすべてのビジネスマン必読の一冊。