この記事の内容を3行でまとめると、
・「なんでお酒飲まないの?」という言葉は暗に飲酒を強要している
・酒を飲まないという常識の中で生きる人もいることを知ってほしい
・常識は時代や土地に左右される主観的な価値に過ぎない

 
卒酒をしてから、127日が経過した。

お酒を止めてからよく聞かれる質問のひとつに、

「なんでお酒を飲まないんですか?」

というのがある。

あとは、

「どうして酒をやめたんですか?」

とも。

そんなに深い意味のある質問じゃない。

聞いた方だって別にたいして興味があるわけじゃないだろう。

ところがこの何気ない質問を、ボクはいくらか苦々しく思う。

その場を取り繕うために、

「健康のためですよ」

なんてもっともらしく答えては見るものの、内心は

どうしてそんなことを答えにゃならんのだ?

とやきもきしていたりする。

酒を強要するパワハラ(アルコール・ハラスメント)なんじゃないかと感じることもある。

元々お酒が苦手な人もきっと、似たような経験をしたことがあるんじゃないだろうか。

ボクが酒を飲まない理由

ボクが酒を飲まない理由はいたってシンプルで、それがボクにとっての常識だからだ。

決してムリをして禁酒や断酒をしているわけではない。

酒を飲んでいる人にむかって

「どうしてお酒を飲むんですか?」

と聞く人はいないだろう。

それは、質問した側とされた側に”大人が酒を飲むのは常識だ”という共通認識があるからだ。

でもボクはあいにく、酒を飲むのが当然という常識を持ちあわせていない。

代わりに、人間は酒を飲まないのが当然という常識を持っている。

だからボクにとって「なんでお酒を飲まないんですか?」という質問は、

「なんで呼吸をするんですか?」

「なんで髭を剃るんですか?」

の類に問いに極めて近い。

もちろんもっと突っ込んだ話をすれば、自発的に酒を飲まないことが、いかに健康的で人生に幸福をもたらす豊かな習慣であるかを刻々と語ることもできる。

でもボクは別にあなたを説得したいわけじゃない。

卒酒という素晴らしい人生の選択について、あなたに紹介しているだけだ。

ボクは酒をやめて人生が豊かになったよ。君もどうだい?

常識は時代や土地に左右される主観的な価値だ

アルコールハラスメントなんて騒ぎ立ててはみたけれど、はっきりいってなんでもかんでもパワハラだセクハラだとコンプラに怯えてビクビクしている風潮はあんまり好きじゃない。

なんだか窮屈じゃないか。

そういう考えがハラスメントを生むんだと偉い人から怒られそうだけど、お互いに首を絞め合う世の中ってホントに健全なんだろうか?

大切なのは、お互いの常識や価値観を尊重する心だ。

たとえば日本ではあまりモテない女性が、海外の男性からはモテモテだなんていう話をよく聞く。

美男美女の定義が国や地域によって異なるからだ。

同じ日本人同士だって好みのタイプはそれぞれ違う。

好きになった女性の容姿は、補正が掛かってどんどん美人に見えてくる。

美人という定義が客観的な指標であれば、こんなことは起こり得ない。

「彼女は美人だ」

とあなたが思っていたとしても、他者が同じように彼女を美人と感じるとは限らない。

あなたにとっての常識は不変の価値などではなく、時代や土地によって左右される極めて主観的な価値なのだ。

人はいつだって色眼鏡を掛けている。

無色透明のメガネで世界を認識できる人間なんていない。

問題は、どんな色のメガネで見るかだ。

自分のそれと同じくらい他者の常識や価値観を許容できる色眼鏡を掛けるのか、自分の考えに固執し相手に押しつける独善的で排他的な色眼鏡を掛けるのか。

メガネの色は自分で選ぶことができる。

願わくは飲酒文化が衰退せんことを

田舎者だから東京の事情はわからないが、ボクが子供の頃は、少なくともボクの目に見えている世界では、大人の男がタバコを吸うのは常識だった。

母に煙たがられながら台所の換気扇の下でタバコを吸う父の背中が、ごく当たり前の日常だった。

非喫煙者は圧倒的マイノリティであり、常識を振りかざす喫煙者の陰で、ずいぶんと肩身の狭い思いを強いられていたはずだ。

それがいつの間にか、両者の立場は逆転した。

30年前は小市民に過ぎなかった非喫煙者が、市民革命を推進したブルジョアジーのように我が物顔で街を練り歩く時代になった。

常識は、儚く脆い。

資本主義と強く結びつき、広告によりメディアを支え、飲食業界の雇用を促進する飲酒という文化は途方もなく頑強に見える。

人類はすっかり飲酒文化の奴隷と化してしまった。

しかしそれだって一時の価値でしかなく、いつ廃れたとしても不思議ではない。

大局を見れば、アルコールがニコチンと同様に人類の負債であることは明らかだ。

少なくともボクにはそれが常識であるように思える。

だから酒好きの特定個人を貶める意図はないし飲みたい人は飲めばいいと思うけれども、飲酒文化全体に対しては断固として反対したい。

願わくは、私の目の黒いうちに飲酒文化が衰退せんことを。

(Photo by conan_mizuta | Pixabay)