「どうしてお酒をやめたんですか?」
思いがけずそう聞かれて、言葉に窮してしまった。
その場では
「お酒を飲んでいる時間を、もっと他の有意義なことに使いたいんです」
なんてもっともらしい答えを口にした気がする。
卒酒によって自分の人生をよりよいものにしたいという、意識の高い理由に嘘はない。
学生時代に多大な影響を受けた師が、お酒を飲まない人だったというのも大きい。
でも私の卒酒の本質は、もっと別のところにある気がする。
少し前に、元モーニング娘。の吉澤ひとみさんが飲酒運転とひき逃げで逮捕された。
判決は”懲役2年、執行猶予5年”。
もちろん加害者が一般人でも大変な事件だが、話が芸能人となると、世間は絶対に許してくれない。
テレビや新聞、ネットニュースのデスクはPVの取れる事件に歓喜して記事を出す。
行き場を失い社会に鬱積したフラストレーションは、鬼の首を取ったように一気に加害者へと向かっていく。
吉澤さんという肴で、「馬鹿だよなあ」と盛り上がり酒を飲む。
「自分だけは絶対に飲酒運転もひき逃げもするわけがない」
「悪いのは酒に酔った人間であって、人間を酔わせた酒ではない」
何の根拠もない主義主張を持って平然と酒を飲む。
そんな自分に、矛盾に満ちた自分に、いい加減嫌気が差していたのかもしれない。
こんなことを書いたら、酒好きの人たちからひんしゅくを買うのはわかっている。
その人がお酒を飲むという理由だけで、誰かを嫌いになることなんて私にはできない。
現代でアルコールのない世界を生きるのは容易なことじゃないし、声高に卒酒を叫ぶメリットなんて何ひとつないんだ。
だけど、50年後か100年後か1000年後かわからないけど、いつかきっとお酒のない世界がやってくる。
それだけは確信している。